状態異常:レビテト

 ガンブレードを引っ提げて戻ってきたスコールを見て、おれたちは揃って息を呑んだ。視界の端にちらちら揺れていたジタンのしっぽがぶわりと逆立つ。
(おい、やべえぞバッツ)
(わかってるって)
 ジタンが握ったままだった盗賊刀の柄で脇腹をどつかれる。こいつの言いたいことはちゃんと理解していた――下手なことを言うな。
 おれはあえてゆっくりと片手を挙げた。持てる限りの力を尽くして表情筋を笑みのかたちに動かす。自然に、そう自然にだ。ジタンから見ればとんでもなくぎこちないだろうが、横目で見た彼だって頰がひくりと引きつっている。大丈夫だ、おれたちなら出来る。あらゆるジョブをマスターしたものまね士と人気旅劇団の俳優兼盗賊の実力、今見せつけてやるからな。
「よおスコール、こっちは片付いたぜ」
「……見れば分かる」
「まっ、俺とバッツにかかりゃこんなもん楽勝ってな!」
「……当たり前だ」
 生まれた時にはもうそこにありました、と言わんばかりに深く刻まれた眉間の皺をそのままに、スコールはふんと鋭い息を吐いた。腕を信じてもらえたのは嬉しいが、それでも背筋を冷たい汗が転がるのは、きっとジタンも同じだろう。

 おれたちが立っているのは森と草原のちょうど境目だ。イミテーションの群れと遭遇し、撹乱と分断を引き受けたスコールは敵の三分の一ばかりを連れて森に消えた。
 戦場を引っ掻き回すのは最速を誇るジタンの役どころだが、引き付けて誘導するのならスコールの方が上手だった。なにしろ、こいつの武器ガンブレードはとにかく派手な音がする。鹿や狐なら一目散に逃げ出す火薬の炸裂音に、ろくな意志のないイミテーションが本能で喰らいつくのはいつものことだ。
 スコールは強い。おれもジタンも強いが、闘うことそれ自体を生業としているスコールはやっぱり強い。だから残されたおれたちは安心して目の前の敵に集中できた。それが過信でなかった証拠に、戻ってきたスコールには傷ひとつついていない。
 傷はついてない――のだが。

 ごほん、とわざとらしい咳払いはジタンだ。こいつ、名優気取りのくせにいざとなると芝居が陳腐じゃないか?
「あー、スコール」
「何だ」
 少し間合いを置いて立つスコールの声は、いつもに輪をかけて低い。もうほとんど地鳴りだ。最早短くもないつきあいになったおれたちは知っている。こいつは今、とんでもなく、とてつもなく、それはもうたいへんに、機嫌が悪い。
 つまらないことを言えば切り捨てると言わんばかりの眼光に怯み――情けないとは言ってくれるな、おれたちだって命は惜しい――もごもご口籠っていると、わりと気の短いスコールが大きなため息をついて、一歩踏み出した。
 いかついブーツに、黒い細身のパンツを纏った脚が動く。こいつ、嫌味なくらい脚が長いんだよな、とおれは声に出さず噛み締める。そうでもしなければ気付いてしまう、伸びた草を踏んだはずのスコールから、足音のひとつも聞こえないことに。
 ん゛んっ、とジタンがまた咳払いをした。ああもう、気を付けろって最初に言ったのはおまえだろ。
「……何がおかしい」
「いや、別にっ」
 ジタンをフォローしてやるつもりで咄嗟に答えたおれの声は、ひっくり返る直前だった。スコールの凛々しく吊った眉が跳ね上がる。ジタンのしっぽがびびっと天を向く。
 ええいままよ、だ。おれは腹を決めた。
「な、なんでスコール、浮いてんのかなと思ってさ!」
 何気ない問いかけと言うにはあまりに勢いの強すぎたその台詞は、頭上に広がる青空に響き、それから耳が痛くなるほどの静寂を連れてきた。
 そう、スコールは浮いていた。地面からの高さは、腕一本分に少し足りないくらい。ジタンじゃなくておれだって顎を上げて見上げなきゃ目が合わないくらいだ。飛んでいると言うにはやや低い、まるで。
「レビテトだ」
 スコールの返答は端的で、かつおれの思い浮かべていたものとそっくり同じだった。ジタンが目を丸くする。
「おまえ、白魔法使えんの?」
「え、時空魔法じゃないのか」
 もといた世界が違えば、戦闘にまつわるあれこれも変わる。そうか、ジタンのとこじゃ白魔法扱いなんだな、とまた新しい発見を噛み締めていると、スコールが小さく首を振った。
「敵にかけられた。ティナのイミテーションだ」
「なるほど、ティナね……」
 彼女を模したやつなら、レビテトくらいお手の物だろう。しかし、どちらかと言えば役に立つ魔法をこっちにかけてくるイミテーションなんて初耳だ。
「何がしたかったんだろうな、そいつ」
「さあな」
 三人揃って首を傾げる。相変わらず浮いたままのスコールは、たいそう居心地悪そうだった。
「スコール、他のイミテーションは?」
「ガーランドと、あとは知らないやつのイミテーションが二体だ。小さいぬいぐるみみたいな魔法使いと、技を発動させる時に空中に紋章が出る男の」
 たぶんあいつらだな、と見当がつく。魔法使いの方は高笑いしながらブチ切れるのなんのと物騒なことを言うあいつ、紋章の方はあれだ、おれに向かって「空は自由だ」とかなんとか言ってくるやつだ。うそつけ、空ほど怖いところはないんだぞ。
 反射的にぞぞっと身震いしたおれには気づかず、ジタンはふーん、と鼻を鳴らして考え込んでいる。ガーランドに、魔法使いに、お空が好きな小僧。何か共通点があっただろうか――
「風、か?」
 おれの呟きに、ジタンがぱっと顔を上げた。
「ガーランドはたつまき、魔法使いはエアロ系打ってくることあるし、お空小僧もたつまきみたいな技出してくるだろ。それじゃないか?」
「おまえ、よく覚えてんな……」
「ものまねできるかもしれないと思ってなー。上手くいかなかったけど」
 さしものおれも、なんでもかんでも真似できるわけじゃない。おれのすくめた肩を、ジタンがばしんと叩いた。
「それだ、バッツ。風だよ風」
「風とレビテトに何か関係があるのか」
「おれもわかんないな、地震とか罠を回避できて便利ってだけじゃないのか?」
 まだピンときていないおれたちに向かって、ジタンが気障ったらしく人差し指を振った。白手袋には一点のシミもなく、眩しいくらいだ。
「そっちはどうか知らねえけど、俺のとこじゃ、レビテト状態だと風属性に弱くなるんだよ。それを狙ったんじゃねえか?」
 浮くと、風に弱くなる。言われてみればなんとなく納得できる気もした。へええ、と感心するおれをよそに、スコールがまた目元を険しくする。
「つまり、イミテーション同士が連携するようになった、ということか」
「そうかもな、偶然にしちゃ出来すぎだ」
「厄介だな……」
 おれたちがクリスタル探しの旅を始めた頃は、イミテーションなんて大した敵じゃなかった。仲間たちやおれら自身の姿と技を真似て無表情に襲ってくるのは気分が悪かったけれど、所詮ニセモノがホンモノに勝てるわけがない。でも、ここ最近、つまりおれたち三人がそれぞれのクリスタルを手に入れたあたりから、向こうの練度も上がってきていたのは確かだった。
「気をつけないとな」
「だな」
 おれたちは顔を見合わせて頷き合った。スコールが浮きっぱなしなのは少々気になるところだが、レビテトならいずれ効果も切れるだろう。スコールのやつ、なんだかんだ言ってかっこつけなところがあるから、ふわふわ浮いてる状態が気に食わないのも仕方がない。
「一応、敵に遭ったら風属性の攻撃には気をつけるってことで」
「はいよ」
「そんじゃそろそろ行きますか」
 おれは二人を促して進路を採った。遠くに見える尖塔のもとに、コスモスが待っている。近いように見えてなかなか遠い、まあ、道のりが長ければそれだけこいつらとの旅も楽しめるということなんだが。
 さっきスコールが飛び込んだ森を抜けるのにしばらくかかった。もちろん道なんかないから、途切れがちな獣道を辿り、灌木を掻き分けて進む。がさがさと草を漕ぐおれとジタンを尻目に、スコールはレビテト状態のジャンプを活用して涼しい顔だ。
「スコール、ちょっと楽しいだろ」
「別に」
「こんなに草にまみれたおれらのこと、かわいそうだと思わねえ?」
「別に」
 わざとらしく前だけを見つめるスコールが、本当は面白がっているのがわかる。その証拠にほら、今唇の端がわずかに震えた。
 おまえだってレビテトが切れたら草まみれだからな、と恨めしげなジタンの声。こんな旅の中でも妥協しない伊達な洒落者は、木の枝に擦ったらしい二の腕に視線を落として嘆息した。
「クソっ、ブーツが痛んじまう」
「傷の方を心配しろ。万一毒にでも当たったら面倒だ」
「おいおいスコールちゃん、おまえが本当は優しいってこと、俺らには隠さなくていいんだぜ?」
「毒消しくらい持っているだろう。自分で何とかしろ」
「……バッツ聞いたか? スコールが冷たい」
 ことさらに肩を落とすジタンを笑うおれも、いつもの恰好だったらジタンと同じようにかすり傷をあちこちに作っていただろう。しかし、今日は違う。
 昨日、イミテーションの攻撃でぬかるんだ地面に足を滑らせたおれは、頭から爪先まで泥まみれになってしまった。荷物を漁ったら、いつだったか通りすがりのモーグリに押し付けられた――「おにいさんにぴったりな服があるクポ! お代はいらないから持っていくクポ! 遠慮することないクポポ!」――ものが出てきたので、それを着ている。厚手の生地は長袖で、完全防備だ。赤いマントもなんとなく気分が変わって悪くない。
「この森抜けたら今日は早めにテント張るか。おれも洗濯したいしな」
「ああ、あの泥まみれのやつな」
「捨てていなかったのか」
「もったいねえこと言うなよ」

 この世界には不思議が多いのだが、その最たるものが天候だ。晴れていたかと思えばいきなり土砂降りの雨になったり、蒸し暑さに喘ぎながら歩いていると突然雪景色が広がったりする。退屈しないのは確かだ。
 そのことを忘れたわけじゃない。けど、森の出口をやっとのことで見つけたおれたちが油断していなかった、と言えば嘘になるだろう。なかなかレビテトの切れないスコールはともかく、道なき道を草木に阻まれながら進むのにうんざりしていたおれとジタンは、特に。
「やったぜバッツ、出口だ!」
「よっしゃ! 出るぜ!」
「おいっ、おまえら」
 一目散に駆け出すおれたちを追って、スコールも走る。木々を抜け、ううん、と伸びをした瞬間。
 ごうっ!
「うっわ、」
「すげえ風だ!」
 唐突に、真横から叩きつけるような突風が押し寄せた。ジタンが咄嗟に目を瞑り、おれは口を噤む。しかし、おれたちは忘れていた。厄介なのは砂埃なんかではなくて――
「うわあ!」
「ぐええっ!!」
 スコールが叫んだ、と思ったら、おれは思いっきりのけ反っていた。ぎゅうぎゅうと圧迫される気管から、潰したカエルのような苦悶が漏れる。く、苦しい、首が折れる。
「スコール、バッツ!」
 切羽詰まったジタンの声がする。頼む、助けてくれ。どうやらおれの喉は、例の赤いマントに締められているようだった。いつものショルダーガードがないから、首回りにぐるっと巻いて金具で留めていたせいだ。それを引っ張っているのはもちろん、
「スコール、手ェ離せ! バッツが死ぬ!」
「おれだって吹き飛ばされて死ぬぞ!」
「だー! どうしろってんだよ!」
 レビテト状態のままのスコールだ。レビテトだと風に弱くなる、つまりこういうことだったのか。よくわかったぞ。
「ぐえ゛え゛え゛え゛」
「バーッツ! 死ぬなよ、がんばれ!」
 ジタンが叫ぶのは聞こえているが、今はちょっと自信がなかった。四隅から暗くなる視界に星が飛ぶ。痛い、苦しい、遠くでチョコボの鳴き声がする。なんだか懐かしくて泣きそうだ。
「スコール、掴まれ!」
「届かない!」
「クッソ! ふわふわしてんじゃねえよ!」
 ジタンとスコールの声が交錯する。ああ、急に眠くなってきたな。ふたりが落ち着くまで少し寝てもいいかな。クエッ、クエクエッ。そうか、おまえも一緒に昼寝するか?
「仕方ねえ、今回限りだからな! スコール、ありがたく思えよ!」
「なんでもいいから早くしろ!」
 ありがたく思えよ、だって? そうか、ありがたいかもな。こうやって久しぶりにおまえに会えたんだものな。なあ、相棒。あのな、おまえの羽のおかげで、おれ、すごくいい仲間に――
 おれの意識はそこで途絶えた。

 はっ、と気がつくと、二種類の青がおれを覗き込んでいた。底抜けに晴れた空の縹色と、嵐の予兆を孕む蒼灰色。
「バッツ、バッツ!」
「返事をしろバッツ、聞こえるか」
 ふたりがあんまり深刻そうに言うから、おれはだるいのを押して片手を持ち上げた。
「あー……だいじょーぶだいじょーぶ」
 絞り出した声は、自分でもぎょっとするほど掠れていた。スコールがぎゅっと眉を寄せる。
「とりあえず、水いるか?」
「おう、助かる」
 ジタンに背を支えられて水を口に含んだ。砂埃でじゃりじゃりしていたから何度か濯いで、それから喉を潤す。渇きが癒える頃には、おれは助けがなくても起きていられるようになっていた。
「どっか痛むか?」
「目眩は」
「いや、目眩はしないよ。首が痛いかな……寝違えた時みたいな感じがする」
 でも大したことなさそうだ、とゆっくり首を回してみせると、ふたりはやっと安心してくれたようだ。
 見上げた空にはぽっかりと雲が浮いて、なんとも長閑だ。さっきまで突風が吹き荒れていたとは思えない。そうだ、とスコールを見ると、レビテトの効果はめでたく切れたらしく、ちゃんと地に――文字通り――脚をつけて跪いていた。
「バッツ、その……すまなかった」
 俯いたスコールが、相変わらず低く、けれどはっきりと、謝罪の言葉を口にする。そういえば、吹っ飛ばされそうなこいつに首を絞められたんだっけ。いや、もちろん不可抗力だ。おれはそこまで心の狭い男じゃない。
「気にすんなって、むしろ周りも確かめずに飛び出して悪かったよ」
「しかし……」
「あの状況じゃ仕方なかっただろ? 贅沢言うなら背中とか腕とかにして欲しかったけどな、しがみつくなら」
 冗談めかしたおれの言葉に、ジタンがけらけらと笑った。
「スコールの熱い抱擁かあ、そりゃ役得だな」
「だろ? また吹かねえかな、風」
「さっきはバッツだったんだから、次は俺の番だろ」
「残念、ジタンじゃ一緒に飛んじまうよ、諦めろ」
 馬鹿馬鹿しい応酬に、スコールはやっと顔を上げた。呆れたようなため息をつくその目元は、確かに和らいでいる。
 おれは指を動かしたり肩を回したり、身体の調子を確かめながら尋ねた。
「なあ、結局、どういう状態になってたんだ? おれら」
 いかんせん首を締められていたせいで、おれの記憶は曖昧だった。ジタンが助けてくれたらしいが、そのくだりは全く覚えていない。
「ああ、それな」
 洒落者の盗賊は、近くに転がっていた木の枝を手に取って、地面に絵を描き始めた。丸い頭に楕円の胴、手足は棒の簡素なやつだ。
「これが地面な。これが俺だろ、んでその右隣にいたのがおまえな」
「ふんふん」
「で、おまえのさらに右隣にスコールがいたんだけど、あの突風のせいで……」
 がりがり、とジタンが付け足したスコールは、地面を示す直線に対して限りなく水平に近い状態だった。
「うわ、マジか」
「マジも大マジ、旗みてえになってた」
「これはすごいなあ……」
 スコールもさぞかし慌てたことだろう。生きていて生身の身体がこんな状態になる機会はそうそうない。ジタンの説明は続く。
「で、俺がおまえの腹にしがみついて、もう片手でスコールを捕まえようとしたんだけどな」
「……手が短くて届かなかった」
「おい、短いって言うな。今の俺がおまえらよりちょっと小ぶりなのは俺のせいじゃねえ」
「そうだといいな」
「コスモスの勘違いだっつーの! 俺だって元の世界じゃなあ!」
「はいはい落ち着けー」
 ぎゃあぎゃあと声を張り上げるジタンを宥めて、続きを促した。見るからに不満そうなまま、彼は美しい毛並みの尻尾を振ってみせる。
「ギリギリ届いたこいつでなんとか」
 そうこうしているうちに、吹き始めと同様、風は前触れなく止んだそうだ。おれはそれとほぼ同時に昏倒したらしい。
「そうか、ジタン大変だったな。ありがとう」
「どーいたしまして」
 本人は芝居がかった言い回しを好むくせに、真っ直ぐに褒められたり感謝されたりすると照れるのはいつものことだ。まだゆらゆらと揺れている尻尾はなめらかな毛に覆われてしなやかに見えるが、本当は強靭だ。いくら小さいとはいえ(悪いなジタン、でも事実だ)彼の身体を吊り下げてしまうくらいなのだから、レビテトで良くも悪くも軽くなっていたスコールを繋ぎ止められたのだろう。
 しかし、とおれは思う。
「いいなあ、スコール」
「……いきなりどうした」
 怪訝な顔がふたつ並ぶ。違う青を嵌め込んだ二対の瞳はどっちも綺麗だ。さっき気を失いかけながら、自分が誰かに話しかけていたことを思い出す。そう、あの羽根のおかげで、おれはこいつらと仲間になれた。誰も知らない、何のあてもないこの世界で。
「何が羨ましいんだよ?」
 にまにまするおれの目の前で、ジタンが手を振る。森を抜ける前は新品のように綺麗だった白いグローブは、今は砂にまみれて煤けていた。その向こうでまた深刻な顔をするスコールも、顔のあちこちに汚れをつけたままだ。それがなんとなく嬉しかった。
「おーい、バッツ?」
「やはり頭に異常が……」
「ああ、違うちがう!」
 おれは我に返って立ち上がった。立ちくらみもない。戸惑いを隠さないジタンとスコールに向かって、おれはできる限り明るく笑った。
「ジタン、今度おれにも尻尾触らせてくれよ」
「はあ!? 羨ましいってそのことかよ! ぜってえやだ!」
「そんなこと言うなよー、スコールばっかりずるいって」
「緊急事態だったからだよ!」
「なあなあスコール、どんな感触だった? つるつる? さらさら? 意外とふわふわ?」
「そうだな……強いて言えば」
「スコールも真面目に答えてんじゃねえ! つーか感触楽しむ余裕あったのかよおまえ!」
 いつものようにやかましいおれとジタンに、今日はスコールも加わる。テントが張れそうな場所を探して歩きながら、おれは心の中でかつての相棒にそっと謝った。
 ――今すぐは帰れないけどごめんな。でもおれは大丈夫、こいつらがいるから。土産話、楽しみにしててくれよな。