その指輪はもういらない

「……図々しい盗人がいたものだね。いや、コソ泥かな」 かざした燭台の灯り、照らされた侵入者は気まずそうな顔をしてしっぽを振った。「コソ泥はねえだろ、コソ泥は」「こんな時間に家主に挨拶もなく忍び込んで、食べ物を漁るようなお…

状態異常:レビテト

 ガンブレードを引っ提げて戻ってきたスコールを見て、おれたちは揃って息を呑んだ。視界の端にちらちら揺れていたジタンのしっぽがぶわりと逆立つ。(おい、やべえぞバッツ)(わかってるって) ジタンが握ったままだった盗賊刀の柄で…

流れ星におねがい

「……キレイやなぁ」 ほう、と息をついたセルフィの瞳は、夜空に釘付けだ。今夜は月がない。セントラの突端、灯りを落とした石の家を背にして、アーヴァインは静かに手を握りしめた。 半月前は無慈悲な夜の女王が君臨していた空は、今…

ベリーベリー

 エーコはりっぱなレディなので、たとえそこが仲間みんなに開かれた共有スペースであっても、バタバタとはしたない足音を立てて乗り込んだりはしないのだ。それでも、食堂の扉の隙間から忍び込んだときにふわりと香るものには相好を崩さ…

78できるかな

【そのいち:まだできてない編】  スコール、バッツ、ジタンの三人組は、別行動を取っていた一軍と期せずして合流した。正確には、鹿に似た生き物を見つけて、夕食にしてやると意気込むバッツの指揮のもとで追い込み猟をしていたところ…

beautiful beast

 酷い乱戦だ。 焔を纏って突っ込んでくる拳を受け流し、イミテーションの体勢が崩れたところを掬い上げようとしたガンブレードの勢いを咄嗟に殺して横転する。一瞬前まで自分が立っていた位置を寸分違わず切り裂く斧の重さと鋭さに、ス…

真っ赤な林檎に唇寄せて

 いい天気だった。 甘い匂いがするな、と風を受けたバッツが言うと、林檎かな?とジタンが鼻を動かした。彼らの足元でイミテーションが砕けて消えてゆく。「あっちかな、そんなに遠くなさそうだ」「ラッキー。行ってみようぜ」 スコー…