「リーブ様、ご無事ですか」
気配というものをまるで欠いた静かな体温が目の前に跪くのを感じて、こどもはやっと頭を抱え込んでいた両腕を下ろした。それからこくりと首を縦に振ってみせると、黒いスーツに身を包んだ男もまた軽く頷いた。
拙い防御体制は、この男が出会ったその日に教えてくれたものだ。このところは、この手の荒事もなりをひそめてはいたものの、こどもは教えられたことを数月の安穏のうちに忘れてしまうような不出来な頭を、あいにくのことながら持ち合わせていなかった。
あたりには濛々と砂埃が立ち込めていて、こどもは目を細める。対してこのこどもにかしずく恰好の男は長い黒髪に埃を纏わせながら、表情筋というものをまるで動かすことなく、ピジョンブラッドの双眸でこどもを見つめている。こどもの返答通り、傷のないことを確かめているのだろう。
「ぼくは大丈夫です。ありがとう、ヴィンセント」
重ねて言えば、男のまなじりが僅かに和らいだ、ということに気づくのはきっと自分ばかりだろう、とこどもは思う。
こども、つまりリーブ・トゥエスティ七歳にとっての世界は、たいていの場合昏く澱みひどい悪臭に満ちたものだった。
とある豪商の長男坊といえば誰もが安穏たるくらしを想像し、勝手にやっかんだり妬んだりするのだろうが、問題はこの豪商の家というのが、こどもが生まれる前からずっと、なんとも身汚い御家騒動の渦中にあったということだ。こどもの祖父である先代当主が後継をこれと定めずにぽっくり逝って、その子にあたる異母兄弟たちが見るに耐えぬ家督争いを繰り広げた。何年もかかってようやくリーブの父が当主の座に収まったはいいものの、だからといって争いが終結したわけではなく、単に次代に持ち越す判断を下さざるを得ないほど縺れにもつれた結果の妥結に過ぎない。
さんざんぱら身内の恨みと嫉みを買ってご当主様となったリーブの父もその父に似て下半身に締まりがなく、いっときの快楽と引き換えに得た花柳病がもとで、今は死の床と浮世とを行ったり来たりしている。あと数年のうちに死ぬだろう。その最期の呼吸を誰よりも強く待ち望んでいるのが、彼の異母弟と不貞の関係にある妻だという点だけで、こどもを取り巻く世間の醜悪さも知れようというものだ。
そのような環境にあって、年端もゆかぬこどもというのは実にいいように使われる。ある親類はリーブをこれでもかと甘やかし籠絡して後見人の座に収まろうとするし、他の親族は事故にでも見せかけて殺してしまおうとする。薄汚い猫撫で声とみすぼらしい殺意の割合はおおよそ二対八といったところで、こどもはそのいずれをも恐れることはなく、ただ単にうんざりしていた。
唯一信頼できるのは、乳母であるルビィという中年の女だけだった。どうしてこんなひとがこの家に仕えることに決めたのかとおさなごころに疑問を禁じ得ないほど穏やかで心優しい彼女は、もちろんのことリーブの境遇に心を痛めた。文字通り我が乳で育んだ坊やがおとなの浅ましい欲に振り回された挙句、命まで取られてしまうかもしれないという想像に耐えかねた彼女はしかし、この上なく豪胆でもあった。すなわち、こつこつ貯め続けた給金をある日全額かばんに詰め、うさんくさい伝手を辿ってとある男にこどもの護衛となるよう依頼したのである。
その護衛が、ほかならぬヴィンセントであった。
昼間のことがあり、こどもはいささか疲れていた。学校からの帰途、いつも通りヴィンセントの運転する車の後部座席でぼんやり流れる景色を眺めていたところの襲撃だったのだ。失礼、と端的に告げたヴィンセントが急ハンドルを切り、一瞬遅れて飛び込んだ衝撃にリーブが目を回しているうちに、護衛の男の腕に抱え上げられた。こちらでお待ちください、そう言われて大人しく身体を丸めたまま素数を順番に数え、127が本当に他の数で割り切れないのか検討しているうちにヴィンセントが戻ってきたというわけだ。
今日の騒がしい客は誰の指図だったのか、ヴィンセントは教えてくれない。屋敷までそう長い距離ではないからと現場からリーブと、ついでに教材の詰まったかばんとを軽々と抱えて歩いた男は、こういう場合でなくとも無駄口を叩くほうではなかった。別に自分の足でも歩けるのに、と思っても口に出さなかったのは、自分の命が狙われた不安によるものというよりは単にヴィンセントの腕が心地よかったからだ。ぶらぶらと揺れるふくらはぎに、スーツの生地越しの硬く重い短銃が当たるのを感じて背筋がぞわぞわするのは止められなかったが。
屋敷の門をくぐるが早いか、転がる球のような勢いで飛び出してきたルビィにリーブを引き渡すと、ヴィンセントは再びどこかへ行ってしまった。今日の宿題を早めに終わらせるようにと言い残す声色はいつもの通り愛想に欠けていて、それにルビィが「こんなときに何が宿題なもんですか」とぷんすか鼻息を荒くするのがリーブには可笑しかった。
ルビィは砂埃まみれの坊やを風呂場に連れ込み、頭のてっぺんからつまさきまでぴかぴかに磨き上げた。こどもがいつも首に巻いている赤いスカーフもきちんと手洗いし、ぴしりとアイロンがけまで済ませ、手ずから用意した少し早めの夕食を平らげるまで、彼女はこどもの隣を離れなかった。そのぬくもりに安らぐものを感じながら、しかしリーブはヴィンセントがどこに行って何をしているのだろうと考えるのに忙しい。
こどもの口に合うように整えられた食卓をきれいに片付けてごちそうさまと手を合わせる。リーブの食事を毎食ルビィが用意するようになったのはヴィンセントがやってくる少し前からのことだ。乳母は何も言わないが、恐らくは毒などよからぬものを混ぜられるのを警戒しているのだろう。ありがたいことだ、と思うその思考回路が七歳のそれではないと気付けないことが、あるいはこのこどもの不幸の最たるものかもしれない。
そうして部屋に戻り、言われた通りに宿題を済ませる。学校の課題など大したものではなく、早々に片付けるとリーブはスケッチブックを開いた。
ルビィなどはこのこどもが絵を描くのが好きなのだと思っているようだが、実際のところは少し違う。絵を描くのが好きなのだというより、絵を描くことで確かめたいのだ。彼がいま少し年長で、己の欲求を言語化することができていれば、彼にとっての絵は自分がどれだけ世界を正しく認識できているかの確認作業である、と説明しただろう。そのように説明できないこどもが描くのは、目下のところ目の前にある他愛もない物体が主だった。閉じたノートに重ねた鉛筆や、半分ほど水の入ったグラス、開いた辞典に列車の模型。
描くものとスケッチブックとの間で視線を行き来させていたために気づくのが遅れたが、いつの間にか部屋の隅にヴィンセントが控えていた。アイロン跡も洗練された黒一色のスーツは室内灯のもとで鈍い鉄色に反射する。どうやら彼も着替えたようだが、それならばもっと楽な格好になればいいのに、とリーブは思う。この男がスーツ以外の姿でいるところを、そういえば見たことがない。
「リーブ様」
ヴィンセントの深い声にも、リーブは応じる気になれなかった。鉛筆を握りしめ、紙の上の半端な物体の続きを描き出そうとする。護衛の男は音もなく絨毯を踏み締め、椅子に座ったリーブの傍らに跪いた。
「ご気分は」
「悪くないよ」
「お食事は」
「食べたよ」
「宿題は」
「終わったよ」
「そうですか」
端的な応答ののち、ヴィンセントは口をつぐんでリーブを見つめた。光が入らなければ黒くも見える瞳がこどもをまっすぐに見据えている。無言のうちに観察されている。リーブは鉛筆を握ったまま、しかし居心地の悪さに耐えかねてヴィンセントに向き直った。
実際のところほんの十秒そこそこであったろう視線の衝突のうち、リーブはヴィンセントの虹彩の数をかぞえようとした。この男が護衛になった時、こんなにも得体の知れない赤という色が存在するのかと思ったものだ。彼の瞳はそれまでのリーブが見たこともない緋色で、強いて言えば図鑑で見た猛獣の喉奥に似ている。玉石のように硬質なのに、むせかえるほど生々しい。きっとこれと同じ赤が自分の左胸の奥に脈打っているのだろうと、リーブはほとんど確信していた。
根比べは今日もヴィンセントが折れた。ふっと細く息を吐き出して、拍動する心臓と同じ色の瞳の半ばまでを薄い瞼が覆った。密ではないがそれなりに長さのある睫毛が男の頬に梢のような影を落とす。
ヴィンセントを構成する色は多くない。瞳とネクタイの赤、髪と睫毛とスーツの黒。しかし塗り絵にしてみろと言われたら何十色を使っても足りる気がしないのはどういうわけだろうか。この血色の失せた肌を、色褪せた唇を、その向こうに覗く歯を、何色に仮託しても上手くいきそうにない。ましてや、たった今唾液を飲み下した喉の尖りが落とすあえかな影を描くことなど、誰にも出来ないに違いない。
埒もない空想にのめり込むこどもの内心、その視線の行き先を知ってか知らずか、ヴィンセントは、明日は学校には行かせられぬというようなことを言った。彼がそう言うのならそれでいい。学校に行かないということは、とりもなおさずヴィンセントかルビィかその両方が手の届くところにいてくれるということだ。願ってもないことだった。
この時のリーブはほんの七歳のこどもで、その歳に実にそぐわぬ思考回路と欲望と諦念とを持ち合わせてはいたが、それでもこどもはこどもだった。そのやわらかな両手が届く範囲だけを世界とし、有形無形に息を締めつける誰かの悪意から逃れるためにたったふたりの人間だけを頼りにして、ゆえにリーブにとってもっとも恐ろしいのは、自分が殺されることよりもルビィとヴィンセントがいなくなることだ。
だからこの夜も、リーブは訊いた。目の前の絨毯に膝をつき、無表情のままかしずく男を試すように、縋りつくように零れる問いは、毎夜の約束ごとだった。
「ヴィンセント」
「はい、リーブ様」
「あなたはいつまでぼくのことを守ってくれるの」
男はためらわず、しかしこどもに言い聞かせるように、まばたき一回分の間を置いて静かに応えた。
「あなたが私を必要としなくなるまで、おそばに」
こどもにはそれが嘘か本当かは分からない。ルビィの払った金のぶんはとうに働いただろうに今日も変わらぬ答えは、それでもこどもが悪夢のない眠りに落ちるためには必要だった。
鉛筆を握ったままのリーブの手を、ヴィンセントの手が包み込む。リーブの指からやんわりと鉛筆を奪い、男がささやく。
「今日はもうおよしなさい、リーブ様」
その言葉に自分がどう応えたのか、こどもは覚えていない。火照ったこどもの指で感じるヴィンセントの肌が乾いて冷たく、それが背骨を震わせるほど心地よかったことだけが、いつまでも脳の底にへばりついて離れなかった。
ヴィンセントは、椅子に座り続けることにとうに飽いたらしい。
「あっ、動かないでくださいヴィンセント」
「いつまで続ける気だ、尻が割れるぞ」
「それはいけない、今すぐ確かめましょう」
さあ脱いで、とたたみかければ、おまえは本当に可愛くなくなったと嘆息が返ってくる。仕方のないことだ、まるまるとした頬も愛らしいこどもは今や立派なひげを生やし、いわゆる中年の域に王手をかけた成人男性になっていた。
トゥエスティ、と言っても誰も知らぬ異国の、大きくも小さくもない街のとあるアパートメントの一室。青い鳥も居眠りしそうなほど静かな快晴の午後に、リーブはキャンバスに木炭を滑らせている。その向こうがわでは、窓際で木漏れ日を浴びるカウチに身体を沈めたヴィンセントがあくびを噛み殺した。
「巨匠」
「何かね我がミューズ」
「飽きた」
「あと十分」
「寝るぞ」
「いっそ好都合です」
ばかばかしいばかりのやりとりは、歳を重ねるうちに言葉遣いが逆転した。かつて慇懃なまでの敬語でもってこどもに接していた護衛は言葉足らずなのは変わらぬまま対等なくちぶりに変わり、それに合わせてシーソーが動くようにリーブはゆるやかな丁寧語を使うようになっている。深い理由はなく、単に周りから要らぬけちをつけられぬようにと努めた結果の言葉選びが板についただけだ。人生のすでに九割近くに寄り添ってくれた元護衛との年齢差を考慮したわけでは、決してない。
かれこれ二十年近く前、リーブはついにすべてを放棄することに決めた。契機となったのは愛すべき乳母の急逝だ。間もなく十八の齢を迎えようとするリーブを狙った何者かに負わされた傷がもとでルビィは命を落とした。それを悔やんだのはリーブばかりではなくヴィンセントもまた同様で、彼はあるじの悲嘆と憤激の命ずるままに下手人はおろか命を下した縁戚をも討った。事故と自殺に見せかけたその手腕は見事なものではあったが、ほとぼりが冷めるまでどこかに身を隠してはと提案する護衛に、リーブは言ったのだった、もういいと。
もういい、こんなのはうんざりだ。連綿と続く殺意の醜聞に、これ以上は付き合っていられない。本当はもうずっとうんざりしてきたし、もっと早く思い切るべきだった。そうすればルビィを喪うこともなかった。生涯を通じて背負う悔恨は、そのひとつで充分すぎる。だからヴィンセント、ぼくと一緒に逃げましょう。
乳母の墓前で奥歯を食い縛る若きあるじの声を聞いたヴィンセントは、了解しましたと頷くとあっという間に全ての手配を終えた。リーブの個人資産に加えてトゥエスティ家のなかで宙に浮いていた口座からいくばくかをちょろまかし、偽名の旅券に査証、それらを用いて陸海空の各種旅程を押さえ、あちらこちらの国に滞在先を整え、最低限の荷造りをしながら、リーブの名で離縁状まで準備してのけた。金輪際トゥエスティの家には関わらぬから探してくれるなというようなことがそれらしい文章で記された書状の末尾にサインして、リーブは前半生を過ごした屋敷に永遠のいとまを告げた。
それからずっと、ふたりは離れたことがない。
「ヴィンセント、寝ちゃいました?」
「……寝ている」
「そうですか、じゃあそのままで」
「首が攣りそうだ」
「大きな寝言ですねえ」
いくつかの国を渡り歩いて、もう旅も飽きたからとこのアパートメントに腰を据えた。ヴィンセントによれば「うっかり間違えて」一桁多くちょろまかした資産のおかげであくせく働く必要はないが、それはそれで退屈なのでリーブは手頃な仕事を探した。とある慈善団体が運営する初等学校に教師として雇われ読み書きや算数を教えつつ、休日画家としてどうということもない絵を描いて過ごしている。
どうということもない、というのには語弊がある。少なくともリーブにとっては重要なことだ――七歳のあの夜、跪いたヴィンセントの肌を何色で描き出すか思案したあの夜から今に至るまで、まだ納得できる答えを見つけられていない。
もう一生分働いたと嘯くヴィンセントに、それならそれでいいから僕の絵のモデルになってくださいと頼み込んで、休日のたびに彼を描く。カウチに座らせたり窓際に立たせたり、場合によってはベッドのコンフォーターにくるまるしどけない姿を写し取ることもある。困りごとといえば、書けば書くほどに色だけでなく線もが追いつかぬと気づいてしまったことだ。彼の鼻梁を、歳を重ねてやや落ち窪んだ眼窩を、頬に落ちる髪のしなやかさを、もう銃を握ることのない乾いた指先を、翼をもがれたような肩甲骨の稜線を、筋肉が落ちて克明になる腰骨の鋭利さを、こちらが動揺するほど無防備な膝裏の腱を、どのように辿れば白いキャンバスに閉じ込めることができるのか、リーブはそのたびに途方に暮れる。
「巨匠、十分経ったぞ」
「何のことでしょう」
「……聞いたかケット・シー、あの男はこうやって老人を誑かすんだ」
などと言いながら腹の上で丸くなる飼い猫に話しかける男は、なるほど確かに加齢はしたものの、まったく老け込むことがない。本人に言わせれば毎日苦労もなく遊んで暮らしているからだというが、だからこそ枯れてゆかないのがリーブには不思議で仕方がなかった。トゥエスティの家を捨てて飛び乗った国境を越える列車の中ではじめてのくちづけを交わし、あの頃のヴィンセントはそれこそ今のリーブと同じ歳の頃だったはずだが、その歳の差さえもほとんど欲情の燃料にしかならなかったリーブを満身で受け止めてくれた夜を想う。あれから数え切れないほど重ねた共寝は、夜ごと新鮮な劣情と底なしの恋慕を連れてリーブを忘我の淵に蹴り落とすのだ。
なーお、と猫がひと鳴きして、ヴィンセントの腹から滑り落ちた。軟体動物のようにてろりと床に前脚を伸ばし、そつなく着地すると、悠々とした足どりで窓の隙間を抜けてゆく。無聊を慰めていた猫が去って、いよいよ耐え難くなったのだろう、ヴィンセントが長い溜め息をついた。そうして、首をめぐらせてリーブを凝視する。ピジョンブラッドの双眸、その深い輝きこそ色褪せることはない。
「そんな見つめられると照れますね」
「ひとを散々視姦してくれたやつが何を言う」
「視姦だなんてとんでもない」
さきほどまで寝台の上の彼の姿を白昼夢に見ていたことさえ見透かされたようだ。ヴィンセントはくつくつと喉奥で笑い、おもむろに立ち上がる。
「もう終いにしたらどうだ」
「ええ……」
リーブとて集中を絶たれ、もう大した線は引けないだろう、と分かりつつ木炭を手放すことができない。もう少し、と思う。もう少し描きたい、というのは紐解いてみればつまりもう少し彼を見ていたい、ということだ。
未練がましく逡巡するその指が、ヴィンセントの両手に包み込まれる。リーブよりも少し低い体温、なめしがわのように馴染む肌。はっと気づいた時には、目の前にヴィンセントが膝をついていた。あの頃と同じように。
「しようのないやつだ」
こう言わねば効かんか、と両目を細めるヴィンセントの唇に、たちの悪い笑みが浮かぶ。彼の指が木炭片を摘み上げ、薄黒く汚れたリーブの指先に温かく湿った吐息が触れた。
「今日はもうおよしなさい、リーブ様」
はっ、と吐息を破裂させる笑いはリーブの肺から湧いて出た。悪戯を成功させたつもりだったのだろう元護衛の手首をひっ捕まえる。
ヴィンセント、前からずっと言おうとおもってたんですけどね。
「……その呼び方、むらむらするんでやめてもらえますか」
まさかそんなカウンターが来るとは思っていなかったのか、虚を突かれたように目をぱちくりさせた歳上の恋人は、まさかおまえ、と絶句する。彼がまたやくたいもないことを口走るのを封じるために、細い顎をとらえて唇に噛み付いた。