wild

【wild】野生の。荒涼とした。狂気じみた、熱狂的な。乱暴な、荒々しい。

 あれ、もう交代の時間? そっか、ほんとだ、さっきの星があんなとこにある。
 え? ほらあそこのさ、一本だけ離れてる樹の横にふたつ並んでる星あるじゃん。あれがさ、さっきまではおれらの上にあったから。クラウド分かってる? あれだって、違う、おれの指じゃなくて。
 そんじゃおれら休ませてもらうな。行こうぜフリオニール……って、なにセシル。え、おれだけ残んの? なんで? え、離せよーなんだよーおれもう眠いよー……ああもう分かったって。フリオニール先寝てて。うん、すぐ行くし。えっ、すぐ終わるかどうかはおれ次第ってどういうこと? うーん、まあいいや。おやすみフリオニール。

 ……で、なに? 説教なら明日にしてくれよ、あっ違うんだ。やだな、二人で両脇挟むなよ。こええって。あいつには聞かせらんない話ってこと? コソコソ隠しごとすんの、よくないと思うんだけど。
 うわ、クラウドそういうこと言うなよな。だーかーらー、悪かったって秘密にしてたのは。ごめん、はい、おれの言えたセリフじゃなかったです。はいすみません。
 んー、だってなんか、言うタイミング逃しちゃったっつーか……ほら、ふたりともいなかった時期、あったじゃんか。なっ。それでなんかこうさあ……いや、セシル、笑顔が怖いっす。
 そんで、話ってナニ? へ、質問、おれに? やだなー、ふたりがそういう顔してる時って、だいたいなんかあんだもんな……え、お茶、うん、もらう。ありがと。
 ……ええー……うっわそういうやつかあ……。そんなんいいだろ別に……。どうしても答えなきゃダメ? だよなあ、うーん、なんで好きになったのか、かあ……。

 うん、難しいって。なにかを好きな理由って説明すんの難しくねえ? だってさあ……いや、そんな、あいつだったらなんでもいいとか、そんなわけじゃないんだって。うわっこいつムカつく! ってことだってあるしさあ。……くっそ、ニヤニヤしてんなよな……。
 ああそうそう、最初はな。ちょっと怖かったかも。だってさ、あんな山ほど武器背負ってて、なんかやべーかも! って思うじゃん。そりゃセシルとかウォルとかも、おれからしたらゲームのキャラって感じでびっくりしたけど。それに、最初のころは向こうもなんかカタかったよな。警戒されてるってわけじゃないけど、お互いに距離を掴めなかったって気がする。
 おれと戦い方も全然違うしな。はは、そ? ありがと、うん、今は超噛み合ってる感じするよ、一緒に戦ってて楽しいもんな。おれがガーッと行って、あいつがビシッと押さえる、みたいなさ。あ、相性がいいって言ってもらえんの嬉しいな。
 うーん、だんだん仲良くなって……なんだっけ、確かおれが腕かどっか切ったんだよな。そんでセシルにケアルしてもらおうと思って……覚えてる? そうそう、横から急に肩掴まれてさ、俺がやるって。
 はは、あん時はちょっとびっくりしたよな、あ、こいつケアル使えるんだって。いや、おれが使えないから、なんか同じかなと思ったんだけどさ。まあ大した傷じゃなかったんだけど、うん、その時の顔がさ、めちゃくちゃ真剣で。あれ、って思ったんだよな。近かったから、やっぱ手がでかいんだな、とか、こんなとこにほくろあるんだ、とか、まつげも銀色なんだ、とか。そんで、終わったらすげーいい笑顔するし。

 それから、そうだな……やっぱ戦闘中だったんだよな。おれが先に行き過ぎちゃって、挟み撃ちされたんだよな。やべえ、って思ったら斧飛んできて。そうそう、あの重いやつ。で、バカでっかい声でおれの名前呼ぶんだよな。
 結構離れてたのに、飛んできてさ。返ってきた斧ガッて掴んで、次の瞬間にブラッドウェポン発動して。
 ああそっか、あん時だったのかな。
 ……すげー綺麗だな、って思ったんだ。何がっていうか、全部が。世界が止まったみたいな気がした。太刀筋が赤く光って、あいつに取り込まれるのまで分かった。いろんな武器が生きてるみたいに動いてたけど、おれには、あいつ自身がひとつの武器みたいに見えたんだ。なんていうか、荒削りだけど、強くてまっすぐでさ。
 最後に弓を射るだろ。その眼がさ。……はは、なんか、上手く言えねーや。……おれの見たこともない眼をしてた。あれってブラッドウェポンのせいなのかな。瞳孔が開いて赤く光って、獣みたいっていうか……上手く言えないな、とにかく、こいつが帰ってこなかったらどうしようって、思った。
 でも、全部終わって振り返ったあいつは、いつものあいつだった。たぶん、油断するな、って怒りたかったのと、心配だったのと、安心したのが混ざったんだろうな、なんかビミョーな顔しててさ。口がもごもごしてて、目がうろうろしてて。そんでおれが笑っちゃったら、あいつもつられて笑った。
 ……なんで、帰ってこないかも、って思ったんだろうな。こいつがおれのことも、セシルとクラウドのことも、みんなのことも忘れて、どっか行っちゃう気がしたんだ。
 そんで、おれの予感は正しかった。

 そっか、あの時もうクラウドはいなかったのか。セシルはいたよな。うん、セフィロスが、あいつの花を奪ってった時。
 やっぱあいつ強かったよな。あの時は正直、おれらが三人束になっても勝てる気がしなかった。あいつにサシで勝ったんだもんな、クラウドやっぱすげーよ。
 ……セシル覚えてるよな。あん時、おれらがあいつを引き留められなかったこと。あいつが、セフィロス追って独りで行っちゃって。セシルもおれも、ケガしてたのに。おれたちが呼んでも、振り返りもしなくて。ブラッドウェポン発動してなかったのに、おんなじ眼してた。血みたいな赤。
 セシルの傷が深かったからそれどころじゃなかったけど、……違うよ、ごめん、そういうつもりじゃない。……おれ、めちゃくちゃ悔しくて、悲しかった。あいつに腹立つ、ってのはそういうこと。
 でも、それもあいつなんだよな。大切なものを、ちゃんと大切にできる。必死になるって、ほんとは難しいことだもんな?
 だからさ、クラウドが花を取り戻してくれたの、おれも嬉しかったんだ。あれで、あいつは皇帝に正面から堂々と向かって行けたから。

 ……のばらってさ、すごく強い花なんだってな。あんなにちっちゃくて可愛い花なのに、トゲが鋭くて、荒れた土にも咲いて、抜いても抜いても生えてくるって。ああそっか、そうだよな、って感じするよな。あいつの「のばら」って、きっとそういうことなんだろうな。

 はい、こんだけ話せばもういいだろ? おしまい!
 なんだよ、おれほんと眠いんだって。
 ……あーそうだよ、すげー好き! おれはフリオニールが大好きです! 
 もうほんと勘弁して。おれもう行くからな。……うるさいな、赤くなってんのなんか、分かってるよ。
 おやすみ!