swing

【swing】前後左右に揺れ動く。

 ゆらゆら揺らぐのは、おれか、世界か。

 喉笛に喰らいつく象牙質に息を呑む。噛み付いておいて、それを詫びるように痕をなぞる舌がぬめって熱い。
 唇に硬い銀の髪が触れる。はあ、と吐いた息が押し当てられて、その熱さに彼の興奮を知って、覚えるのは浅ましい歓喜だ。
 うつくしい男。切れ長の瞳は焔を閉じ込めたような琥珀に輝き、大理石から削り出したような頤は腱の浮いた首筋に鋭く繋がる。いくつもの武器を背負ってびくりともしない肩はティーダを押さえつけるために力がこもり、ささくれて硬くなった指先が髪を掻き乱す。
 長い脚が自分のはしたない中心をぐいと押し上げて、まるでこれから彼を穢すような錯覚にティーダはまた追い上げられる。こんなにも強く真率な男が自分に欲情しているのだと、その事実が何よりも熱を煽る。
 昼間は真っ直ぐに伸びる背筋が、今はティーダを貪るために屈められている。鎧もマントも脱いだ背中は薄いシャツ一枚を纏ってひどく無防備だ。今の彼を傷つけるなら、小さなナイフひとつあれば事足りる。そこに転がっている、先ほどまで彼が丁寧に磨き上げていた刃だけで。
 身もふたもない思いつきに、劣情がさらに膨れて窮屈になる。それに気づいた男がうれしそうに笑った。ティーダ、と呼ぶ甘い深い声に、いつの間にか閉じていた瞼を開ける。絞ったランプの灯りを反射した彼の耳飾りが、しゃらりと音を立てて揺れるのを見た。

 彼はティーダに奉仕されるのを好まない、ふりをする。腰にしがみつくのを慌てた手つきで押し留めて、そんなことはしなくていいと言う。そのくせ、額にかかる指にはろくな力が入っていないし、見下ろす琥珀は期待にぎらりと閃く。
 だから彼の言うことなど聞いてやらない。ずいぶん前から反り返っていた凶器の先端にわざとらしくくちづけて、目だけで彼の表情を伺いながら広げた舌を這わせる。唾液を飲み込む喉仏の動きだけで、腹の底がじわりと疼く。鼻先を擦り付けた下生えから、色欲が匂い立つ。それを追うように息を深く吸って、血管の浮いた幹を甘噛みした。
 びくり、と腹筋が痙攣する。見事に割れたそこに額を預けて、根元をしゃぶる。その下で重たげに張り詰めるものにも舌を伸ばし、縋りつく腕で腰を引き寄せる。同時に頭を抱え込まれて、覆いかぶさる胸が荒い呼吸に波打つのを心地よく感じた。
 吐息と共に呼ばれる名前に急かされて、くちづけたきり構ってやらなかった切っ先を頬張る。きゅうと吸い上げて、ずるずると呑み込んだ。口内に広がる生臭い塩気。
 頭の中に靄がかかってしまって、もう何も考えられない。このまま窒息してしまっても構わなかった。喉の奥まで迎え入れて引き絞ると、たまらず零れた喘ぎが頭頂の髪をなびかせる。次から次に溢れてくる雫を、夢中になって啜った。
 大きな掌で後頭部を鷲掴みにされて、口を犯される。玩具のように前後に揺さぶられても、こみあげる笑みが抑えられなかった。えづきそうな苦しささえ快感に変わり、燻る餓えを加速させる。ぱさりと落ちた彼の長い髪が、視界の端で揺れていた。

 前からしてくれよ、とねだるのとほとんど同時に、腰の下に枕を差し込まれる。獣じみた唸りを浴びながら、腰が卑しくうごめくのを止められなかった。
 しつこく弄られて、受け入れるための器官に堕したそこに張り詰めた熱が押し付けられる。はやく、とせがむ自分の声が欲情にずぶ濡れで、滑稽さに笑い出しそうだ。
 はやく、欲しい、それが欲しい。まるで哀願だ、その浅ましい声を叱責するように身体を開かれる。貫かれたところから肺まで押し潰されるような質量に、勝手に開いた喉が喜悦の鳴き声を吐き出した。
 ティーダ、大丈夫か、と労わる調子の声を無視して、下腹部を撫でる。おまえの、ここまで来てる、と挑発すると、舌打ちとともに律動が始まった。恵まれた体躯に見劣りしない長大なものが、胎の内を蹂躙する。襞を捲り上げるように引き抜かれ、最奥に嵌め込むように突き込まれる。それを咥えていた時から垂れ流しっぱなしの涎が耳まで伝ったのを、他人事のように感じていた。
 互いに互いを馴らした通り、雁首が前立腺を抉った。絶叫に近い悲鳴とともに反射で退ける腰を、燃えるような掌が引き戻す。逃げるな、と咎める声は低く掠れた。言うことを聞かない駄々っ子を叱るように、繰り返しそこばかり穿たれて、ティーダは吐き出すものなしに達した。
 最早意思などあったものではない、許容を超えた悦に泣き喚くティーダをよそに、内壁はいよいよ貪欲に彼にしゃぶりつく。奥歯を噛み締めて波を耐えた男は、呼吸すら止めて少年の肢体を貪った。唇を、喉を、肩を、鎖骨を、胸を、腕を手首を、太腿を、ふくらはぎを、アキレス腱を、踝を、爪先を、彼の犬歯と舌が嬲る。ひと突きごとに絶頂の高みに放り出される身体では、揺れているのが自分なのか世界なのか、もう分からなかった。

 このまま壊れてしまえばいい。揺さぶられるまま、ばらばらに散らばるこの世界から振り落とされてしまえばいい。秩序も混沌も知ったことではなかった。
 明日になれば。明日には全てが終わってしまう。自分たちが勝つのか負けるのかもどうでもよかった。終焉が、離別がそこで自分たちを待ち構えている。哀れな夢は、明日こそ本当に消える。彼が元の世界に帰る、その後ろ姿を見送って。
 もうどこにも行けない。何も話せない。「また」も「今度」も「次」も「いつか」も、もう決して交わせない。ここが世界の果てだと言うならば、その断崖から身を投げ出せたらどれだけ幸せだっただろうか。

「フリオニール」
 潰れた喉が刻む彼の名前を、あと何度呼べるだろうか。
 胎を焼くような熱い奔流に意識まで呑み込まれながら、明けの明星の如き瞳が涙で揺れるのを見た。頰に落ちた彼の雫が、自分の涙と溶け合って流れるのさえ、ひどく羨ましかった。