Bird cage

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懲りないおとこと折れないおとこ

「好きだぜ、スコール」「そうか」「俺のダーリンになってくれ」「断る」 ——という会話をしてから、ふたりは買い物に出かけた。スコールが冬用のアウターと新しいスニーカーを買って、ランチをして、サイファーは靴下を買って、本屋を…

スコール・レオンハートは髪を切りに行ったようです

 かろん、とドアベルが鳴り、男は帳簿から顔を上げる。仏頂面でするりと入店したのは、額に傷のある美青年だった。「いらっしゃいませ」「……急にすまないが、頼めるだろうか」「ええと、はい、大丈夫です。カットだけなら」 予約表を…

複製不可能性の祈り、あるいはアルマシー氏の甲斐甲斐しい準備

 スコールは己の見目かたちに言及されることをひどく嫌う。その嫌悪はあるいは恐怖にさえ似て見えるのは、サイファーの思い上がりとも言い切れまい。スコールはおそろしいのだ、その面差しが、その瞳が、その鼻筋が、その唇がその肌がそ…

12月の母親たち

 この辺りは冬に雨が多いようだ。しとしとと降り始めた小糠雨を頬に感じながら、きっとそのうち本降りになるだろうと予感していた。傘の持ち合わせがないが、たかが雨に濡れるだけのことだ。たかが雨。十二月も終わりに近づき、深まりつ…

キニアス先生の言う通り

 無駄に長いメールを読むのに嫌気が差して窓の外を見たら、空の色が夏になっていた。と、感じたことに一拍置いてから驚く。我ながら陳腐ではあるが、それにしたって詩的だ。気恥ずかしさを覚えて軽く頭を振る。(天気がいいから、仕方な…

映画『cake』より

 サイファー・アルマシーは死んだ。  ガルバディア政府によって発行された死亡通知書を受け取って、スコールと仲間たちは慌ただしく列車に乗った。誰もが口を閉ざしたまま、旧デリングシティでリノアと合流し、レンタカーで郊外の墓地…

Pause in end

 703番。それがサイファーに与えられた新しい名前だった。 ここはガルバディア国内にいくつかある拘置所のひとつだ。正確な場所は分からない。ガルバディア司法局の出頭命令を受け、F.H.からティンバーを経由して陸路で国境を跨…

千年午睡

 窓辺の鳥籠でカナリアが鳴いている。ぴいぴいと餌を強請るそいつに、はいはいと返事をしながら指を差し出す。我が物顔で俺の指を止まり木にしたカナリアは、翼を広げて滑空の真似事。風切羽を失ったくせに立派なものだ。 年季の入った…

秘め事

 月が明るくて星が見えない。我が物顔で闇を支配する夜の王者はスコールの眼前に迫り、その表面で蠢く魔物の姿さえ見えそうだった。 スコールはひとり、バルコニーに立っている。デリングシティでも一等の高級ホテルの最上階だ。視界を…