内祝い

 やあこんにちは、僕はモブ・モブルソン。WRO戦略部の新人さ。昨年夏にインターンとして採用されて、この春から正式に局員として働いている。 WROのことは知ってるよね? そう、三年前のあの災厄で痛めつけられた世界を立て直す…

うつくしいひと

 惚れた欲目を抜きにしたって、ヴィンセント・ヴァレンタインは美しい男だ。 雪花石膏のように無機質に白い肌、バンダナに覆われた額はつるりと滑らかで、なだらかな稜線を描く眉はすっと通った鼻梁に繋がる。つんと尖った鼻先、感情を…

V.V.V. – 第四章 螺旋宮

     1  気がつくと、ヴィンセントは壁の前に立っていた。軽い眩暈を覚えて、一歩後退る。ブーツの底で乾いた砂が小さな音を鳴らした。 びょう、と風が吹き抜ける。さして強くもなく、何の香りもない風は舞台の演出のように味気…

V.V.V. – 第三章 風切羽

     1  ヒーリンロッジへ向かう道中に起きた襲撃のあと、リーブたちは束の間の平穏を得た。 ヴィンセントに一方的に叩きのめされ、現地警察に引き渡された襲撃者たちは、窃盗や恐喝、銃火器の違法取引などの余罪と併せて司法の…

V.V.V. – 第二章 獣の咆哮

     1  ヒーリンロッジに行かなくてはならない、と伝えると、ヴィンセントがその長い前髪の向こうから、ぎりりと音さえしそうなほどにリーブを睨みつけた。「局長殿はお忙しくあらせられるようだな」「いやあ、外せない義理と言…

V.V.V. – 第一章 超新星

     1 「そろそろ機嫌を直しては頂けませんか、ヴィンセント」 返事はなかった。正確には、ふん、と鼻を鳴らしたのが回答だったのだろう。車のハンドルを切る彼の手は、今日はガントレットではなく黒いレザーグローブに包まれて…

待ち合わせ

 夕暮れが赤く染める通りを歩くティファは上機嫌だった。秋の市場は楽しい。盛りの茸は香り高く、まるまると太った根菜は身が詰まってずっしりと重い。柔らかそうな子羊のヒレ肉は豪気にキログラム買いして、ぴかぴか光る林檎は子供たち…

恋のひとつ覚え

「もうお帰りですか」「ええ、お疲れ様でした」「あっリーブさん、この間の件ですが、」「すみません、週明けに電話していただいても?」 足早にオフィスを抜ける。支局の職員たちが、リーブの返事に目を丸くした。ワーカホリックの代名…

ねこのはなし

 浴室から出てリビングに入ると、ソファに長いものが横たわっていた。猫は何かの拍子にとんでもなく伸びるものなので、いまさら驚くことはない。タオルで髪の水気を拭いつつ近づいてみる。横になっているからといって眠っているわけでは…

あいがん

 暁闇に紛れて、その指を盗む。 光の気配を孕んだ夜はまだ寝室を支配している。清潔なシーツはわずかに乱されて色を含む。彼は目を閉じて身じろぎもしない。 眠っているのだろう。そう信じている。静かな呼吸に上下する肩、乾いた皮膚…