ミスター・ヴァーティゴ – 3

【番外編】  スイートルームの分厚いガラスは地上の喧騒を遮って、部屋の中はひどく静かだ。空調と空気清浄機が動く微かな音と、ティーダの寝息だけがフリオニールの耳に届く。 時刻は夜中の二時半を回ったところだ。照明を落としたベ…

ミスター・ヴァーティゴ – 2

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ミスター・ヴァーティゴ – 1

   ティーダは死に取り憑かれている。  モニタ越しに見る空には色がない。画面の真ん中を向こう側まで伸びて行くワイヤロープが揺れる。縄の行く先は何階建てかも分からない高層ビルだ。インカムからはびょうびょうと吹き…

ripe

【ripe】果実が熟した。来たるべき時が来た。  ――いつか、おれの夢を見てね。   「おれさ、寄り道すんの好きだったんだよね」 フリオニールが遠くを見ていた目を引き戻した。目の前に広がるのは見渡す限りの荒野、崩れた岩の…

catch

【catch】受け取る、捕まえる。 「おう、相変わらず派手なナリしてんな」 深く通る声。その掌は確かな体温と質感を伴って、フリオニールを難なく受け止める。「――あんたは、」 咄嗟に視線だけで振り返れば、触れるほど近くに輝…

injured

【injured】怪我をした、傷を負った。  がきん、と金属の擦れ合う耳障りな音がした。「くっそ、通んねえ!」 その身を軽やかに翻したティーダが隣に着地する。弾かれたチェーン付きナイフを引き戻して、フリオニールは彼を見や…

ride

【ride】乗り物に乗る。  見渡す限りいっぱいに広がる、若草の鮮やかな緑。ところどころ顔を見せるのは黄や桃色の可憐な花。頭上には抜けるような蒼穹が広がり、髪を揺らす風は爽やかだ。まるで絵本のような、平和な昼下がり。セシ…

tasty

【tasty】(自分の好みに合う味で)美味しい。  クラウドには最近、ハマっていることがある。「ティーダ」「何すか?」 ちょいちょいと手招けば、仔犬のように駆け寄ってくる少年。自分のそれより彩度の高い金髪がぴょんと跳ねる…

dizzy

【dizzy】めまいがする、くらくらする。目が眩むような。  ぐらり、と天が回って、落ちたと思った。 はっと見開いた目に、見慣れた天幕が飛び込む。そうだ、昨日は見張り番の先発で、真夜中に眠ったのだった。いつものテントに、…

ghost

【ghost】幽霊、亡霊、幻影。  風のない夜だ。夜行性の鳥が溜息のような声で鳴いている。 ひたりと肌に貼りつく空気はティーダの体温にちょうど一致して、どこまでも歩いて行けそうな錯覚をもたらす。現実から数センチだけ乖離し…