20221005

 同僚の香港人が「とても美しい詩があるんだよ」と教えてくれた漢詩がかなりRVだったのでご紹介します。

葛生蒙楚,蘞蔓于野。予美亡此,誰與獨處。

葛生蒙棘,蘞蔓于域。予美亡此,誰與獨息。

角枕粲兮,錦衾爛兮。予美亡此,誰與獨旦。

夏之日,冬之夜。百歳之後,歸于其居。

冬之夜。夏之日,百歳之後,歸于其室。

詩経・葛生

 以下は葛城による気合訳です。気合訳というのはつまり「漢文読めないけど、漢字の並びから推測するに多分こんな感じの意味だと思う」というやつです。漢和辞典を引きながらがんばりました。ググったらもっとちゃんとした訳がたんまり出てくると思います。特に1〜3行目の最後の四字をどう訳すか(主語は詠み手なのか相手なのか)よく分かりませんでした。どっちでも成り立つ気がするけど、漢文ちゃんと分かる人なら主語を特定できるんだろうな。

 葛は生い茂りいばらを覆い、藪枯らしのつるは野原に広がる。わたしのうつくしいひとはここに眠っている、たったひとり、誰を伴うでもなく。
 葛は茂り合いなつめに絡まり、藪枯らしのつるが墓地に伸びる。わたしのいとしいひとはここに眠っている、たったひとり、誰と寄り添うでもなく。
 角飾りの枕が輝き、錦の褥がきらめく棺。わたしのこいしいひとはここに眠っている、たったひとり、共に夜明けを迎えるひともなく。
 いくつもの夏の日を越え、巡り来る冬の夜とを重ね、いつか天命に許された日に、あなたのいるここへ帰ります。
 幾千の凍える夜を愛で、幾万の燃える日を言祝ぎ、百年ののちにはいつかきっと、あなたのもとへと還ります。

 同僚によればこれは夫を戦で亡くした妻の詠んだ歌とのことです。
 詩の意味を英語でがんばって説明してくれる同僚には大変申し訳ないながら、頭の中はもう不老不死のまま局長のいない世界を生きてゆくV氏の後ろ姿でいっぱいになってしまいました。だってこれRVじゃん。どう考えてもRVだよ(RVではない)。
 愛したひとのことを「美」の一文字で表しているのが胸に迫りますね。そして最後の2行の広がりの鮮やかさといったら。極端な単位の数字が好きなわたくしには「百歳之後」が見事に刺さりました。「あなた」がいない世界で「あなた」を惜しみながら、それでも天命の尽きるまではこの世界を生きて生きて、いつかの未来にはきっと「あなた」のいるところへ還ろう、だなんてもう……V氏……(RVではない)。

 いつか書いてみたいと思っていた話そのままの詩が三千年前の中国で詠まれていたということで、わたくし大変満足いたしました。凡人が見る程度の幻覚は先人によって美しい詩や物語になっているのですね。古典を掘れば自分で書く必要もなくなる気がする。

 emojiぺたぺたありがとうございます〜! いいかげん新しいやつ書きたいですね、書きたい。なんか仕事がすごい感じになってきてるんでアレなんですけど。
 思いっきりばかばかしい話が書きたいな! ネタはあります、白目剥くくらいくだらないやつが。あとは時間と気力の問題だ。